今日の社説

2017/05/26 01:22

温泉・美食学で誘客 魅力集積の北陸こそ拠点に

 温泉と食文化を楽しむ滞在型観光「温泉・ガストロノミー(美食学)ツーリズム」を推進する全国組織に、北陸三県で初めて加賀市が加盟した。全国では大分県別府市など10自治体程度が加盟しており、各地が連携して多彩な旅のスタイルを国内外に発信する。

 ガストロノミーツーリズムは、ウオーキングしながら地域ならではの食を味わい、自然や歴史、文化を体験する旅のスタイルで、欧米で普及しているという。これに日本が誇る温泉を加えた旅が温泉・ガストロノミーツーリズムで、昨年10月に日本観光振興協会やANA総合研究所などによって新たに推進機構が設立された。

 一般にはなじみが薄い言葉ではあるが、温泉と食に自然・歴史・文化体験と言えば、石川、富山県では従来から提案してきた旅のスタイルである。加賀市に限らず、この地には素材が豊富にあり、加盟の動きが広がれば、魅力が集積した北陸は新たなツーリズムの拠点になる可能性がある。

 加賀市は第1弾の事業として、11月に山中商工会などと連携し、山中温泉の総湯「菊の湯」や景勝地の鶴仙渓などを巡る食べ歩きイベントを開催する。旬の加能ガニやカモ料理などの食と、松尾芭蕉ゆかりの温泉の魅力を売り込む企画であるが、加賀市には、温泉・ガストロノミーツーリズムを北陸に広める先導役の取り組みも期待したい。

 推進機構は今後5年をめどに、全国100の自治体で温泉を核にしたウオーキングなどの食べ歩きイベントを実施する体制づくりを目指している。渓谷沿いや湖畔、河畔、里山、海辺と特色ある温泉地がそろっている石川、富山県で推進機構と連携したイベントを開催できれば、誘客の大きな力になるだろう。

 推進機構の特徴は、インバウンド(訪日外国人旅行者)需要を強く意識している点にある。機構の名称も「温泉」ではなく「ONSEN」としており、外国人旅行者に日本の温泉の魅力を広くアピールしていくという。その点でも、新幹線の開業以降、外国人旅行者が急増している北陸は、活動の中核になり得るのではないか。

「総理の意向」文書 違法性疑う事実には乏しい

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画をめぐり、「総理の意向だ」などと書かれた文書について、真偽の確認を求める声がある。文書は特区担当の内閣府と許認可権を持つ文部科学省のやりとりを記録したものとされる。

 「新設を1校に限定するかは政治的判断」「官邸の最高レベルが言っている」などの文言からは、首相の「威光」を押し出す内閣府とこれに抵抗する文科省のせめぎ合いが読み取れる。

 文科省の前川喜平・前事務次官は会見で、文書の存在を認めた上で「公正であるべき行政がゆがめられた」と主張した。天下り問題で辞任に追い込まれ、不満を持つとされる人物の「恨み節」であり、額面通りには受け取れない。

 だが、前川氏のいうように、この文書が文科省の役人によって書かれたものだとしても、贈収賄やあっせん利得罪など、違法性が疑われるような事実は見当たらない。国家戦略特区はアベノミクスの主要戦略の一つであり、内閣府が安倍晋三首相の意向を強調したのはむしろ自然な流れだろう。

 問題の本質は半世紀にわたって新設を拒んできた「岩盤規制」にある。前川氏は獣医学部の新設について「根拠が薄弱」と批判したが、これは獣医師会の主張と同じである。世は空前のペットブームで、獣医師不足に悩む地方自治体もある現実をどう説明するのか。

 今治市は10年前から特区提案をしてきたが、「対応不可」から「実現に向け対応を検討」に変わったのは旧民主党の鳩山政権下だった。以来、同党議員らが勉強会を開くなどして支援し、昨年春には民進党の高井崇志衆院議員が特別委で「中国、四国地方の獣医師が足りない。戦略特区で希望が見えてきた」と認可に期待を寄せた。

 国家戦略特区の指定は旧民主党政権の方針を引き継いだものともいえる。獣医学部新設に至る経緯や支援した政治家の顔触れ、地元の熱意などを見る限り、首相の口利きを疑う材料は乏しい。民進党などは前川氏の国会招致を求めているが、実現しても状況は大きく変わらないのではないか。