きょうのコラム『時鐘』

2017/05/26 01:01

 人気(にんき)というのはつかみどころがなく、不(ふ)思(し)議(ぎ)なもの、とつくづく思う。休場(きゅうじょう)を決(き)めた稀(き)勢(せ)の里(さと)に、「ゆっくり休(やす)め」というねぎらいや安堵(あんど)の声(こえ)が掛(か)かる

大(おお)けがを負(お)い、胸(むね)の痛(いた)みに耐(た)えての土俵(どひょう)を、ファンも胸を痛めるようにして見守(みまも)ってきた。そんな踏(ふ)ん張(ば)りのかいもなく、場所途(ばしょと)中(ちゅう)で土俵を下(お)りた

大(おお)きな体(からだ)が、相撲(すもう)ファンの心優(こころやさ)しい応援(おうえん)に包(つつ)まれる。この間(あいだ)まで、優(ゆう)勝(しょう)を期待(きたい)されながら裏(うら)切(ぎ)り続(つづ)け、ダメ大関(おおぜき)のレッテルを貼(は)られてきたのだから、人気というのは分(わ)からない。失(しつ)望(ぼう)や落胆(らくたん)の声(こえ)を控(ひか)え、温(あたた)かく見守るファンの多(おお)さを、あらためて知(し)る

白星(しろぼし)に胸をなで下ろし、土(つち)がつくと胸を痛める。ヤジや座(ざ)布団(ぶとん)を飛(と)ばすことはない。言(い)い訳(わけ)や弱音(よわね)を吐(は)かず、黙(だま)って勝負(しょうぶ)する男(おとこ)に温かいまなざしを注(そそ)ぐ。窮屈(きゅうくつ)な管理社(かんりしゃ)会(かい)に生(い)き、殺伐(さつばつ)としたニュースが絶(た)えない日々(ひび)である。だから、暮(く)らしとは離(はな)れた土俵という舞台(ぶたい)に、まぶしい夢(ゆめ)を見(み)るのだろうか

土俵には、筋目(すじめ)を通(とお)す寡(か)黙(もく)な男が確(たし)かにいる。いまどき、土俵の外でそんな人物(じんぶつ)にどれだけ出会(であ)えるか。休場に胸をなで下ろし、しばし思案(しあん)してみる。