きょうのコラム『時鐘』

2017/02/25 00:43

 「リンゴ」を歌(うた)った明治期(めいじき)の詩(し)や俳句(はいく)には名作(めいさく)が多(おお)い。島崎藤村(しまざきとうそん)の「初恋(はつこい)」。金沢(かなざわ)の俳人(はいじん)・中川富女(なかがわとみじょ)も「わが恋(こい)は林檎(りんご)の如(ごと)き美(うつく)しき」と詠(よ)んだ

戦後復興(せんごふっこう)は「りんごの唄(うた)」で始(はじ)まった。美空(みそら)ひばりの「津軽(つがる)のふるさと」は流行歌(りゅうこうか)の域(いき)を超(こ)えた傑作(けっさく)だと思(おも)う。先日(せんじつ)、青森県知事(あおもりけんちじ)が自(みずか)らリンゴのPRに金沢の小学校(しょうがっこう)を訪(おとず)れた。トップセールスの時代(じだい)とはいえ、その徹底(てってい)ぶりに感心(かんしん)した

西洋(せいよう)リンゴは幕末(ばくまつ)に米国(べいこく)から伝(つた)わった。最初(さいしょ)に植(う)えたのは江戸板橋(えどいたばし)の加賀藩下屋敷(かがはんしもやしき)だったとされる。越前藩邸(えちぜんはんてい)の方(ほう)が少(すこ)し早(はや)かったともいうが、現在(げんざい)の板橋区(く)には西洋リンゴの第(だい)1号(ごう)を称(しょう)する名物菓子(めいぶつがし)もある

その広大(こうだい)な加賀藩下屋敷跡(あと)を板橋区が史跡公園(しせきこうえん)に再整備(さいせいび)することになった。維新前後(いしんぜんご)に火薬(かやく)や兵器(へいき)の産地(さんち)となった場所(ばしょ)なので産業遺産(さんぎょういさん)ゾーンとして整備するようだが、西洋の文化(ぶんか)にあこがれたのは兵器ばかりではない。リンゴも平和(へいわ)な近代化(きんだいか)の象徴(しょうちょう)として光(ひかり)を当(あ)ててはどうか

リンゴ。その言葉(ことば)の響(ひび)きだけで、甘酸(あまず)っぱい思(おも)い出(で)をよみがえらせ、新(あたら)しい時代(じだい)の象徴を演(えん)じる不思議(ふしぎ)な果物(くだもの)。かわいい顔(かお)をして憎(にく)いやつ。