今日の社説

2019/05/20 01:17

観光公害で研究組織 「上質な旅」定着促す提言を

 北陸新幹線開業後の旅行客の急増に伴う「観光公害」など課題の解決に向けて、北陸三県の研究者によるネットワーク組織が発足した。まちづくりや観光情報学、都市計画、地域経済学、景観論といった、さまざまな分野の専門家が知識を結集し、観光に関する調査データの共有や共同研究を通して提言を行うという。

 ネットワークには富山県から富大と富山国際大、石川県からは金大や金沢学院大・短大などの研究者ら、総勢28人が参加した。県境を越えた研究者の連携によって、北陸に共通する課題を探り、解決策を提案する。

 新幹線が金沢に延伸して5年目に入った現在も開業効果は衰える気配はなく、富山、石川県には国内、国外を問わず多くの旅行客が押し寄せている。4年後には敦賀延伸を控えており、新幹線効果が北陸一円に広がっていくことは間違いないだろう。

 一方で、金沢に象徴されるように、急増する旅行客によって市民の生活に支障をきたし、まちの景観が損なわれる観光公害も顕在化してきた。旅行客の増加が地域経済に恩恵をもたらしていることは事実としても、いつまでも誘客一辺倒では負の側面がますます拡大し、やがては旅行客からも敬遠される事態を招きかねない。

 北陸の観光の将来を考える時、こうしたさまざな弊害を抑え、目先の利益だけにとらわれない「上質な旅」を定着させていく取り組みが欠かせない。新たな研究組織には、まず第一に、そのための処方箋を示すよう期待したい。

 北陸三県には、自然、歴史、文化に食と、他の地域に比べても質の高い旅の素材がそろっている。限られた一部の観光名所に旅行客が群がるような形ではなく、じっくりと地域の魅力に触れてもらえる旅のスタイルを提案することは可能だろう。

 新幹線が敦賀まで延びれば三県間のアクセスは飛躍的に向上し、旅行客の往来も活発になると予想される。行政の連携が必ずしも十分とは言えないだけに、三県の研究者が広域的な視点に立って提言を行い、質の高い観光の振興に貢献してもらいたい。

世界遺産に古墳群 謎に迫る学術調査に期待

 前方後円墳「仁徳(にんとく)天皇陵古墳(大山(だいせん)古墳)」など「百(も)舌鳥(ず)・古市(ふるいち)古墳群」の世界文化遺産登録が確実になった。世界最大級の墳墓として歴史的価値が高く評価されながら、これまで推薦が3度見送られていた。近畿で唯一、世界遺産がなかった大阪府にとっては待ちに待った朗報だろう。

 対象となる古墳群は、4世紀後半から5世紀後半までに築造された49基で、大小さまざまな形状の墳墓が集中して残っている。この多くは宮内庁の管理下にあり、学術調査は進んでいない。天皇や皇族が葬られた陵墓だけに慎重を期すべき事情は分かるが、人類が共有すべき顕著な普遍的価値を認められた以上、学術調査を加速していく必要があるのではないか。

 陵墓への立ち入りが原則認められていないなか、昨年10月から12月にかけて、宮内庁と地元の堺市が墳丘を囲む二重の堤のうち、内側の第1堤で発掘調査を実施し、築造年代の手がかりとなる円筒埴輪が出土した。4~6世紀は文献資料が少なく、謎が多い時代であり、当時を知る貴重な手掛かりといえる。

 以前の出土品からも金銅製の装身具や馬具、鉄製武器など、中国はもとより、遠くペルシャの影響を受けたとみられるものがあった。古代の日本人が海を越え、大陸と交流した事実を伝えてくれる。学術調査は、古墳成立の秘密に迫るだけでなく、日本史の空白を埋める作業にもなるだろう。

 2025年の大阪万博開催に向け、宮内庁の全面的な協力を得て保存・修復に一層力を入れるとともに、本格的な学術調査に踏み出してほしい。

 対象の古墳群は、空から見ると、大迫力で見応えがあるという。しかし、巨大すぎるために、地上からはうっそうとした森にしか見えない。近くにある堺市役所の21階展望台から見ても、全容を把握するのは難しく、せっかくの遺産を生かし切れないのは残念だ。

 安全性を確保した上で気球などで、上空から見学することができないか。周辺は住宅密集地だけに、難しい注文かもしれないが、全体像を見せるアイデアを求めたい。