今日の社説

2020/08/14 00:23

最低賃金の改定 1円引き上げの意味は重い

 今年度の最低賃金改定は、北陸の3県とも1円の引き上げで事実上、決着した。10月の改定後は富山県が時給で849円、石川県は833円、福井県は830円となる。昨年度まで4年連続で20円台の上昇が続いたことを考えると、今回の上げ幅は小さい。

 とはいえ、このコロナ禍の中でのプラスである。1円を上げる意味は重い。賃金の上昇は経済に好循環をもたらす。厳しい情勢下で辛うじて残った賃上げの機運が経済再生の布石となってほしい。

 法に基づいて定められた最低賃金の改定は、都道府県ごとの審議会で労使の代表と公益委員が額を検討する。例年は中央の審議会が引き上げの目安として出す金額を参考にするが、新型コロナウイルスで経済情勢が悪化した今年度は具体的な額の提示はなかった。

 中央審議会が目安額の代わりに示した「現行水準の維持」は引き上げなしとも解釈できる。しかし、実際に0円の結論を出したのは東京、京都、北海道など少数にとどまった。北陸を含めて多くの県では1円増が決まり、最低賃金が800円以下の県などでは2~3円の上昇となった。

 昨年度より上げ幅は大きく縮小したが、各地でプラスの数字が並ぶ審議結果は、賃上げの流れを止めないという意思の表れとみることもできる。その中でも注目したいのは、石川の審議会が全会一致で1円増を決めたことである。

 石川の使用者は、ぎりぎりまで改定凍結を主張した。コロナ禍を考えると無理もない。それでも引き上げを受け入れたのは、他県でプラス改定が続いたことに加えて、労使対立の弊害を避ける意図があったとみられる。使用者側からは、コロナの苦難を克服するためには労使の協調が欠かせないという意見が出たという。

 石川の労働者側は他県との差を縮めるために、より高い引き上げを求めたが、最後は歩み寄った。労使の合意は地域経済を再生する際に前向きな力になり得る。双方が折り合いをつける過程で、事業継続と雇用維持が重要との認識で一致した経緯を国は重く受け止めて、施策を拡充してもらいたい。

続く黒い雨訴訟 被爆者救済の道を広く

 広島市への原爆投下に伴う「黒い雨」訴訟が、国側の控訴でなお続くことになった。黒い雨による健康被害を訴え、一審で全面勝訴した高齢の原告にとっては非情だが、法制度について冷徹に判断しなければならない政府の立場を示した。

 国側は控訴の一方、黒い雨が降ったと推定し、援護対象とした「特例区域」が妥当かどうか検証する方針を明らかにした。最新の知見、データに基づき、対象区域を拡大の方向で見直し、被爆者救済の道を広げるよう求めたい。

 黒い雨の被害者救済のため、国は1960年代以降、雨による残留放射線量が多い地域を指定し、段階的に援護対象を拡大した。76年には原爆投下直後の調査に基づき、無料で健康診断を受けられる特例区域を定めた。

 一審の広島地裁判決は、複数の専門家の意見や原告の供述を重くとらえ、国の指定した特例区域外でも黒い雨が降った可能性は否定できないとして、区域外での被害を訴えた原告全員を被爆者と認定した。原爆の放射線被害を、他の戦争被害と異なる特殊な被害ととらえ、国の責任において救済するという被爆者援護法の理念に沿った判決ということもできる。

 これに対して国側は、原告の被害認定を含めて「十分な科学的知見に基づいた判決とは言えない」として控訴した。税金による国の援護措置は、合理的な根拠や基準に基づいて厳正に実施されなければならない。その点を曖昧にしたままでは、今後の救済や賠償関係の訴訟に禍根を残すことになりかねないという判断であろう。

 厚生労働省はこれまで、黒い雨の降雨域に関する有識者会議で検討を重ね、「科学的観点から降雨域の特定は困難」と結論付けた経緯がある。広島地裁は特例区域指定の根拠とされる調査について、原爆投下後の混乱期に限られた人手で実施され、範囲やデータに限界があると指摘した。

 広島県と広島市は、裁判では国と同じ立場であるが、独自調査による試算を基に区域の拡大を求めている。国は地元の声を真摯に受け止めなければなるまい。