今日の社説

2019/11/22 00:44

魚津浦の蜃気楼 湾クラブの魅力に厚み増す

 富山湾の蜃気楼(しんきろう)が見えることで知られ、加賀藩主がその様子を絵師に描かせた記録が残る魚津市の大町海岸公園が「魚津浦の蜃気楼(御旅屋(おたや)跡)」として国の登録記念物に選ばれることになった。気象現象に関するものは全国初となり、貴重な自然の営みに歴史的価値が付与されたことで、「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟する富山湾の魅力に厚みが増すと期待される。周辺の文化遺産と一体的に発信したい。

 大町海岸公園には、かつて参勤交代などで立ち寄った藩主が宿泊や休憩のために使う「御旅屋」があったとされ、1797(寛政9)年5月、11代加賀藩主前田治(はる)脩(なが)が参勤交代で江戸から金沢に戻る際、ここで偶然、蜃気楼を見て絵師に描かせた。現在この図は金沢市立玉川図書館近世史料館が所蔵し、江戸時代の魚津の蜃気楼資料として最も重要な資料の一つに数えられる。

 図は上空から富山湾を俯瞰(ふかん)した形で描かれ、6枚の細長い蜃気楼の絵を普段の景色の絵の上に重ね、蜃気楼の出現とともに刻々と変化する景色をパラパラ漫画のような技法で表現しており、先に開かれた文化審議会で、名勝地関係の登録記念物に加えるよう、文部科学相に答申された。

 公園周辺では、国の特別天然記念物「魚津埋没林」や「ホタルイカ群遊海面」といった富山湾独特の自然に接することができるほか、魚津城跡や米騒動発祥の地とされる米蔵など文化資産が多く、多面的な歴史文化ゾーンを形成している。

 何よりも、公園からは現在も蜃気楼が観測できることから、蜃気楼と出会える歴史的観光スポットとして、他にない魅力付けができるはずである。

 ことしは世界で最も美しい湾クラブの総会が、富山県内で開かれた。世界各国から集まった出席者から、多様な自然資源のある富山湾に対して「想像以上に素晴らしい」と高い評価を得た。湾クラブがめざす観光振興と環境保全の両立につなげる上でも、富山湾の良好な環境を映し出す蜃気楼の注目度を高めたい。文化的価値が再認識されたことは、この上ない追い風になるだろう。

香港高裁の判決 名ばかりの司法権独立

 香港政府がデモ隊取り締まりのために施行した「覆面禁止法」について、香港の高等法院(高裁)が、香港基本法に違反しているとの判断を示した。基本法は憲法に相当する法律であり、香港司法当局の健全性、良識を示す判決と言える。

 香港警察は「違憲判決」を受けて覆面禁止法の適用をとりあえず停止したが、中国は「全国人民代表大会(全人代)常務委員会の権威と香港行政長官の統治権に公然と挑戦するものだ」と厳しく批判しており、香港警察はデモ隊制圧の強硬姿勢を緩めていない。

 香港基本法は行政管理権、立法権、司法権の独立や市民の言論・報道、集会、デモンストレーションの自由、さらに大学の自主性などを保障している。しかし、香港の高度な自治をうたう一方で、中国の直接支配を可能にする条文も盛り込んでいる。典型例は「基本法の解釈権は全人代常務委員会に属する」との規定で、中国当局はこれを盾に、香港高等法院の判決を認めていない。

 デモ隊がマスクや覆面で顔を隠すことを禁じる規則は、行政長官の判断で超法規的な措置を発動できる「緊急状況規則条例」に基づいて施行された。しかし、高等法院は、市民の基本的権利を合理的な必要性を超えて制限しており、基本法違反と認定した。

 極めてまっとうな判決であろうが、基本法の解釈権が全人代常務委にあるとなれば、司法の最終判断は中国共産党指導部の考え次第ということになる。覆面禁止法をめぐる訴訟は、香港の司法権独立が名ばかりの実態を図らずも浮かび上がらせたといえる。

 普通選挙などを求める抗議活動を「暴徒の動乱」とみなして鎮圧する中国に対し、米議会は、中国が香港の「一国二制度」を守っているかどうか毎年検証することを米政府に求める「香港人権・民主主義法案」を可決した。トランプ大統領は対中貿易協議の進展具合をみて、法案に署名するかどうか判断するとみられているが、人権・民主という譲れぬ価値観を取引カードに利用すること自体、国際的な批判を浴びかねない。