今日の社説

2020/09/29 00:27

入国制限を緩和 東京五輪開催へ地ならし

 政府が新型コロナウイルスの水際対策として実施している入国制限措置を来月から大幅に緩和する。ビジネスなどで3カ月以上滞在する全世界の外国人の入国を条件付きで再開し、私費留学生や技能実習生、医療、文化芸術、スポーツを目的とした入国も認める。

 経済活動の再開を重視する菅義偉首相の意向を反映したものであり、来夏の東京五輪・パラリンピック開催に向けた地ならしの意味もあるのだろう。

 新型コロナが流行する前には富山県に約5200人、石川県には約4700人の外国人技能実習生がいた。現在は入国制限のため、来日できない技能実習生も多く、石川県漁協ではインドネシア人の技能実習生19人が来日未定となっている。入国制限の緩和は、介護や農業、建設業などの業界にとっても朗報だろう。

 政府は現在、159カ国・地域からの入国を原則拒否している。だが、いつまでも「鎖国」状態を続けてはいられない。緩和によって感染拡大を招かぬよう注意しながら、人、モノ、カネの流通を徐々に活発化させていきたい。

 政府は6月にビジネス関係者の出入国緩和を決め、ベトナムなど一部の国との往来を再開させた。8月には国費留学生の受け入れを始めており、入国制限を段階的に緩和していく途上にある。

 今回の緩和で入国できる外国人は、中長期の在留資格を持ち、受け入れ企業や団体がPCR検査やホテルなどでの14日間の待機措置を確約することが条件となる。

 入国後の隔離はあくまでも「要請」のレベルであり、出歩いたとしても罰則がないことから、受け入れ先が責任を持って約束を守らせる必要がある。これまでと同様、観光客は入国できず、入国者数は1日千人程度の見通しだ。

 スポーツ選手の入国が認められることになれば、国際大会の開催が可能になる。外国人選手には、14日間の待機を求めない代わりに、滞在中の行動範囲を宿舎や会場などに限定するという。移動制限をどう守らせるか、など課題は多いが、五輪開催を見据え、問題点を一つ一つ解決していきたい。

首脳会談スタート 価値観守り、したたかに

 菅義偉首相が、電話会談やビデオ放映で首脳外交をスタートさせた。日本の安全と国益を確保する外交をしたたかに追求してもらいたい。

 米中の対立は、イデオロギーや体制の優劣を競う「新冷戦」の様相を強めている。安倍晋三前首相は米中両首脳と巧みに渡り合い、先進国首脳の間で一目置かれる存在だった。菅首相は「安倍氏のような首脳外交はできない」と自ら認めているが、首脳それぞれの外交スタイルがある。

 まず重要なのは外交技術などより、国家主権や自由・民主主義、法の支配といった普遍的な価値観を断固守る意思であり、それによって定まる外交の軸足、立ち位置からぶれないことであろう。

 トランプ米大統領との会談では、地域の平和と安定の礎である日米同盟を一層強化していくことを確認した。トランプ氏は「必要があれば24時間いつでも電話してほしい」と配慮をみせた。安倍前首相が築いた信頼関係と、菅首相自身が官房長官時代につないだペンス副大統領らとのパイプを生かしてもらいたい。

 中国の習近平国家主席との会談では、日中関係の安定は地域や国際社会のためにも大事であり「共に責任を果たしていく」ことで一致した。習氏との会談は日本側から申し入れた。大国の威厳とメンツを重んじる中国の指導者は、外国首脳からの会談要請にぎりぎりまで回答せず、相手方をじらすケースが少なくない。

 しかし、今回は日本外交筋が驚くほど早く返事が返ってきたという。日本を取り込んで日米間にくさびを打ち込みたい中国側の思惑がありありとうかがえる。

 習氏の国賓来日に関する協議がなかったのは当然である。尖閣諸島の領有権を奪おうと連日、威嚇行動を行い、国際法や人権を無視する国の指導者を国賓として迎え入れることに、多くの国民は納得しないであろう。

 菅首相は、経済的利益を重視して中国との関係安定化を目指す考えのようだ。中国の離間策にはまらず、言うべきことは言う実利外交の手腕が試される。