きょうのコラム『時鐘』

2019/08/23 01:05

 決勝(けっしょう)の前日(ぜんじつ)、大阪(おおさか)から電話(でんわ)が入(はい)った。ダメだとは思(おも)うけど、「甲(こう)子園(しえん)のチケット、手(て)に入(はい)らん?」

地元(じもと)から遠方(えんぽう)へ注文(ちゅうもん)するとは、話(はなし)があべこべだろう。代表校(だいひょうこう)が敗(やぶ)れると関(かん)心(しん)が薄(うす)れる高校野球(こうこうやきゅう)も、ことしは大変(たいへん)な人気(にんき)とか。当日券(とうじつけん)を求(もと)めて長(なが)い列(れつ)に並(なら)ぶのも「シンドイな」と、ため息(いき)を漏(も)らした

必勝(ひっしょう)をもじって「必笑(ひっしょう)」。星稜(せいりょう)ナインのスローガンは試(し)合(あい)を重(かさ)ねるにつれて、応援(おうえん)する側(がわ)にも感染(かんせん)してきた。未熟(みじゅく)なプレーやエラーに顔(かお)をしかめて舌打(したう)ちするより、懸(けん)命(めい)な動(うご)きに笑顔(えがお)で拍(はく)手(しゅ)を送(おく)る方(ほう)が、観戦(かんせん)は数(すう)倍楽(ばいたの)しい

その「必笑」が悔(くや)し涙(なみだ)に変(か)わった中継画面(ちゅうけいがめん)を見(み)て、もう一(ひと)つの合言葉(あいことば)「耐(た)えて勝(か)つ」が浮(う)かんできた。星稜野球に引(ひ)かれ、数々(かずかず)の名勝負(めいしょうぶ)に感(かん)動(どう)してきたファンにとっても、「耐えて」の重(おも)さをあらためて知(し)る夏(なつ)になった。甲子園は、応援する者(もの)も鍛(きた)える

チケットを探(さが)す知(ち)人(じん)も、スタンドの大(だい)声(せい)援(えん)に身(み)を置(お)く感動に強(つよ)く引(ひ)かれ、子供(こども)にも体(たい)験(けん)させたい、という。「なぜか自然(しぜん)に涙(なみだ)が出(で)てくる。勝(か)っても負(ま)けても」。分(わ)かる。大(だい)歓(かん)声(せい)こそないが、こっちも何度(なんど)もそんな具合(ぐあい)になってしまった。