きょうのコラム『時鐘』

2020/11/28 00:28

 突然(とつぜん)の訃報(ふほう)に驚(おどろ)いたが、サッカーのマラドーナ人気(にんき)について、思(おも)いを巡(めぐ)らせた。不思(ふし)議(ぎ)な「英雄伝説(えいゆうでんせつ)」である

早(はや)い話(はなし)、輝(かがや)かしい栄(えい)光(こう)の後(あと)に薬物(やくぶつ)まみれの挫折(ざせつ)を味(あじ)わい、あたら60歳(さい)で命(いのち)を散(ち)らせた。どこが英雄か、と思う。奔放(ほんぽう)で破滅的(はめつてき)な人(じん)生(せい)をそう呼(よ)ぶにしても、「傷(きず)だらけの」という言葉(ことば)が付(つ)く。少(しょう)年(ねん)少女(しょうじょ)の憧(あこが)れ、手本(てほん)になる生(い)き方(かた)ではない

有(ゆう)名(めい)な「神(かみ)の手(て)」ゴールは明白(めいはく)な反則(はんそく)であり、伝説の「5人抜(にんぬ)き」ドリブルは、封(ふう)じる戦(せん)術(じゅつ)がとっくにできている。訃報に関連(かんれん)して、専門家(せんもんか)の話が出(で)ていた。ボールを争(あらそ)う格(かく)闘(とう)技(ぎ)という人間臭(にんげんくさ)い闘(たたか)いの場(ば)にも、情報化時(じょうほうかじ)代(だい)の波(なみ)が押(お)し寄(よ)せてきた

誤審(ごしん)を防(ふせ)ぐ機材(きざい)やルールには事欠(ことか)かない。「神の手」の抗弁(こうべん)も、映像(えいぞう)の検証(けんしょう)で簡単(かんたん)に見(み)破(やぶ)れる。なおも食(く)い下(さ)がれば厳(きび)しく罰(ばっ)せられる。そんな四角四面(しかくしめん)の息苦(いきぐる)しい時代以前(いぜん)に、やんちゃな「神の子(こ)」が大活躍(だいかつやく)した。二度(にど)と出(で)ない英雄、という賛(さん)辞(じ)は、もう英雄が生(う)まれない時代という宣(せん)言(げん)にも聞(き)こえる

古(ふる)き良(よ)き時代は急(いそ)ぎ足(あし)で遠(とお)ざかる。突然の訃報で、20世紀(せいき)の郷愁(きょうしゅう)に包(つつ)まれた伝説が甦(よみがえ)ったのだろう。昔(むかし)、確(たし)かに「英雄」がいた。