きょうのコラム『時鐘』

2020/09/29 00:39

 「鳥肌(とりはだ)が立(た)つ」の意味(いみ)は今(いま)は二通(ふたとお)りある。本来(ほんらい)は、寒(さむ)さや恐怖(きょうふ)で肌にぶつぶつができることを言(い)ったが、最近(さいきん)は感動(かんどう)した時(とき)に使(つか)う人(ひと)が増(ふ)えた

約(やく)20年前(ねんまえ)の文化庁(ぶんかちょう)の国語(こくご)に関(かん)する世論調査(よろんちょうさ)が節目(ふしめ)だった。「鳥肌が立つ=感動」に移行(いこう)する変化(へんか)を指摘(してき)して以降(いこう)、辞書(じしょ)も認(みと)めるようになった。恐怖の事件事故(じけんじこ)が増えているのに、感動的体験(てきたいけん)も増加(ぞうか)している。皮肉(ひにく)なのか、何(なに)か因果(いんが)関係(かんけい)があるのか

演劇評論家(えんげきひょうろんか)の安藤鶴夫(あんどうつるお)さん(1969年没(ぼつ))のあだ名(な)は「感動(・・)する夫(・)」と言った。感動とは人間(にんげん)の持(も)っている最大(さいだい)の喜(よろこ)びだとの持論(じろん)で人情味(にんじょうみ)あふれたエッセーをよく書(か)いた。が、感動とは何歳(なんさい)くらいから感じるのだろう。ある教師(きょうし)によると6歳前後(ぜんご)で理解(りかい)できると言う

今回(こんかい)の調査でも「敷居(しきい)が高(たか)い」や「浮足(うきあし)立つ」などの変化(へんか)が指摘(してき)され、言葉(ことば)は生(い)きものだとの感を強(つよ)くしたが、人間の心(こころ)ほど年々変化するものはない。喜び。悲(かな)しみ。興奮(こうふん)。人として成長(せいちょう)する心の体験を「感動」と呼(よ)ぶのかもしれない

ぼんやりと過(す)ごす日々(ひび)が多(おお)くなったこのごろ。言葉の調査は中高年(ちゅうこうねん)の「精神(せいしん)の若(わか)さ」点検(てんけん)にも使えそうな気(き)がする。