きょうのコラム『時鐘』

2019/05/20 01:12

 藤(ふじ)、桐(きり)、菖蒲(しょうぶ)。5月(がつ)には紫色(むらさきいろ)の花(はな)が咲(さ)く。テッセンも見(み)ごろだ。「鉄線」と書(か)く。花の名(な)が「鉄の線」とは無粋(ぶすい)だが、鉄の線のように強(つよ)いツルを持(も)つからだという

勤(つと)め先(さき)のロビーに「鉄線花」と題(だい)した洋画(ようが)が掛(か)かっている。端正(たんせい)な少女(しょうじょ)を描(えが)いた竹沢基(たけざわもとい)さん(金沢美大名誉教授(かなざわびだいめいよきょうじゅ)・平成(へいせい)10年没(ぼつ))の作品(さくひん)だ。人物画(じんぶつが)なのに、なぜ鉄線花?よく見ると左上隅(ひだりうわすみ)に紫の花が一輪(いちりん)咲いているのだった

加賀友禅作家(かがゆうぜんさっか)の梶山伸(かじやましん)さん(平成9年没)もテッセンが好きだった。郵便(ゆうびん)はがきの挿絵(さしえ)になったことがあった。左下隅に描かれた薄紫(うすむらさき)の花は品があり「植物(しょくぶつ)のスケッチは友禅作家の命(いのち)」と言って、花の観察(かんさつ)を日課(にっか)としていた晩年(ばんねん)を思い出(おもだ)す

竹沢さん。梶山さん。戦後(せんご)の美術復興期(びじゅつふっこうき)の立役者(たてやくしゃ)だが、期(き)せずして平成の同(おな)じころに亡(な)くなった。お二人からは「花は人なり」の言葉(ことば)が浮(う)かぶ。一輪咲いているだけで魅(み)せる。そんな花であり、人だった

令和(れいわ)の美術界(びじゅつかい)の顔(かお)ぶれはすっかり変(か)わったが、四季(しき)の彩(いろど)りは毎年同じ。30年余(よ)の平成の歳月(さいげつ)は短(みじか)いと思(おも)っていたが「意外(いがい)と長(なが)かったでしょ」とささやく紫の花の声(こえ)が聞(き)こえる。