父が営んだすし店跡で居酒屋を始めた丸山さん=富山市東岩瀬町
富山市東岩瀬町の丸山清文さん(59)が、亡き父が同所で営んでいたすし店の建物を活用し、居酒屋を始めた。以前は市中心部の一等地で飲食店を開いていたが、新型コロナウイルスの影響で客足が激減し、ふるさと岩瀬で再出発を図ることにした。父の影響で料理人を志した丸山さんは「父の思いも胸に、岩瀬に愛される店になりたい」と、コロナにめげない気持ちを抱いて腕を振るう。
丸山さんの父、清さんは2015年まで東岩瀬町ですし店「一平」を営み、翌年4月、80歳で亡くなった。丸山さんは「一平」の店舗跡を活用し、今年8月に「いっかく」を開業した。昼間はきときとの岩瀬産シロエビやノドグロの刺し身ランチを提供し、夜は居酒屋として営業している。
丸山さんの料理人生が始まったのは16歳のころ。清さんに「おい、暇してるなら行くぞ」と電車に乗せられ、着いた先は京都の料亭だった。
「まさかそんな始まりとは思わないよね」。厳しい修業を経て京都や富山の店で腕を磨いた。
2015年3月の北陸新幹線開業に合わせ、「自分の力を試したい。必ず成功できるはず」と富山駅から徒歩2分の桜町で「いっかく」を始めた。翌年に清さんが亡くなり、「父の分も」と、おいしい料理で客を喜ばせてきた。
店は軌道に乗り、アルバイト8人を雇うまでに成長した。そんな矢先、新型コロナに襲われた。「一気に予約が飛びました。真っ黒だったスケジュール帳が真っ白になった」
6月に富山駅近くの店を畳んだが、飲食店への思いは消えず、ふるさと岩瀬に「誰でも来られる店を作りたい」と、実家併設の店舗跡に移転した。
小上がりの座席はテーブルに改装したが、父が収集して飾っていた九谷焼や有田焼などの絵皿はそのまま残した。
父の時代の常連客も訪れ「懐かしいね」「頑張ってや」と温かい声を掛けてくれる。店を訪れた地元の澤田稔さん(36)は「シロエビはとろけるよう」と満足そうに刺し身を味わった。
ふるさとに新鮮な味を届けられることに喜びを感じる丸山さん。「ふらりと立ち寄れる店にしたい」と語り、包丁を握った。